最高のツーリングシーズンの真っ只中、ReinforcementセットアップHPN Adventure Sport 1043が完成、新たなオーナーへ納車しました。

 新たなオーナーはこれまでフラットツインを始めとして、数々のビッグ・アドベンチャーバイクを乗り継いできました。最後のビッグバイクの選択を我々と真剣に話し合い、考え、辿り着いた答えが、いつの時代も頭の片隅にあったBMW FACTORY TEAMをダカール・ラリーの勝利に導いたHPNです。

 レストレーションを行いながら、オーナーと打ち合わせた内容を元にマシンのセットアップを進めました。エンジンは各部コンディションをチェックしながら、腰上のオーバーホールを行いました。もちろん、エンジン内部からはHPNの刻印と組み立てを行なったペッパール氏のサインが日付と共に刻まれています。

 メインフレームはタンデムステップブラケットの肉抜き加工を実施。合わせて 塗装前の下処理 として傷や凹みの穴埋め、また不要な部分の穴埋めや切除などの処理を行います。

 損耗の多いエンジンガードも同様に傷や凹みの穴埋め・切削を行い、また、今回は純正のサイドスタンド・ブラケットを切除、スムージング加工をしています。

メインフレーム・サブフレームはHPNホワイト、エンジンガードはブラックのパウダーコートで仕上げています。

 組み立ての始まりはステムベアリングの打ち替え、スイングアームピボットのネジ山にタップを立てるところからです。儀式のような作業を経て、いよいよ組み立てが始まります。

 メインハーネスは断線や被覆の損傷の有無を入念に点検します。ターミナルは研磨し腐食部を再生します。小さなターミナルは一度コネクタから抜き取って端子を磨き、また圧着部にはハンダを流し込み、傷んだ端子は交換します。また傷んだハーネステープは除去して清掃し、新しいハーネステープを巻きなおしました。時間のかかる地味な作業ですが、とても重要な作業です。

 クランクケースとシリンダー・シリンダーヘッド・ミッションケース・ファイナルケースはウェットブラストを行いました。スターターモーターカバーはReinforcementオリジナルドライカーボン製。BMW純正品のわずか4分の1の重量です。

スイングアームはオーバーホール。ドライブシャフトの点検、前後のピボットベアリングを打ち替え、ブーツを交換しました。

スイングアームを仮組みし、ピボットボルトを調整しながら慎重にアウトプットフランジのセンター出しを行います。エンジンやギヤボックスなど、ベースになっている各ドナーパーツはBMW-GSという共通名称ですが、それぞれの時代やモデル、本来の組み合わせが異なる部品を、HPNの手によりモディファイされアッセンブリングされています。分解して組み立てるにも、HPNの手法を知り尽くした我々の持つノウハウによりHPNが組み立てた時と同様の完成をさせる事が出来るのです。

 エキゾーストパイプは凹みを直し、そして磨き込み、リフレッシュされたボクサーエンジンに組付けます。

ストローク300mm仕様のWP4860フロントフォークと、リアにはストローク220mmのR1150GSのパラレバーにオーリンズ製ダンパーをアッセンブル。オフロードにおける走破性とストリートユースでのユーザビリティを両立することが可能です。

オーリンズ製ダンパーは今回、スプリングレートおよびダンパーの仕様を変更。試走を重ねライダーの体重に合わせて、最終セットアップではダンパーの全長も変更しました。新たなユーザーのリクエストも含め、ロングディスタンスへの対応とオフロード走行を前提にセットアップしています。

   フロントブレーキはキャリパーブラケットを製作 し、フロントブレーキにブレンボ製4ポットキャリパーを装着。鋳鉄のHPN製フローティング・ブレーキディスクローターは、ピンを外してインナーローターをウェットブラストしました。

 フロントホイールはハブ・リム・スポーク・ニップル、全てを分解。スポークは腐食に強いステンレススポークも選択肢に入りますが、乗り味を重要視しBMW純正スチールスポークを採用しました。リムはバフがけによりポリッシュ仕上げ、ハブはウェットブラストで仕上げたうえで、組み上げました。

 ブレーキマスターシリンダー・ブレーキキャリパーのオーバーホール。ブレーキマスターシリンダーのケースは塗装を行っています。

 ワイドペグはBMW純正品を加工してフィッティング。HPN本来の雰囲気を壊さぬよう、 小さなパーツのひとつひとつの選定にもこだわっています。 ピボットボルトは切削加工したピンに変更しました。

 サイドスタンドは前後のサスペンションに合わせて延長加工。幾度もフィッティングを繰り返しながら、サイドスタンドを立てた際の車体の角度を調整し製作しました。

シート下のツールボックスの蓋を新たにアルミで製作し、パウダーコートで塗装。シート固定金具もHPNスタイルのフィッティング方法で、今回新たに製作したものです。

 前後ウィンカーは新たにブラケットを製作。ウィンカーの取り付けボルトは必要最低限の長さになるように加工するなど、見えない部分にまで配慮しています。また、シャフト内部には固有振動を抑えるために真鍮パイプを加工して圧入しています。フレキシブルでありながら振動を抑え、折れないウインカーになりました。

 雰囲気に馴染まないメッキのグリップヒータースイッチは分解してブラックにパウダーコートにて塗装。コックピットに統一感を出すために、12V電源ソケットのはウィンカーブラケット同様の構造とデザインで製作です。

新たなオーナーと共に、日本での新たなマイレージを刻むHPN ADVENTURE SPORT の誕生です!